野崎 洋光 (著)
「40歳になったら、野崎さんのところでごはんが食べたい」
7年前に初めて撮影で伺った時にそう思った。
仕事中の雑談の中でふとある話が出た。
「40歳くらいまではあえて言えばはなたれ小僧なんです。自分があるようでまだ確立できていない。“自分”っていうものが自分が思っているほどないんですよ。いろいろな経験をして、学んで、がむしゃらにやる。とにかく頑張る。40歳くらいになるとね、いろいろなことが少しずつわかってきて、そうしたら少しずつ自分を出せばいいんです。焦る必要はないんですよ」
ニコニコ笑っている野崎さんから出た言葉は、30代前半の自分にとってとても大切なものになりました。
カメラマンも料理人も職人っていう観点から見ると似ているなあと思います。いろいろなことで焦っていた自分は、その時少し安心できたんです。そうして40歳を迎えたわけですが、その年に撮影させていただいた野崎さんとのお仕事です。
あの時から何かが変わったわけではありません。撮影の時はやっぱり緊張するし、でも一生懸命頑張るし、そして毎日の撮影がこれでよかったのか自分に問うことも多いのですが、「自分を出す」とか「自分らしい写真」というものは無理をすると逆に出ないんだろうなあ、そんなことを考えるようになりました。
カメラを持って被写体と向かい合い、露出やアングルを考え、シャッターを切る。できるだけシンプルに、素直に、被写体の持ついいところをググっと引き出せたらうれしいです。
40歳を越えてもまだまだ「はなたれ小僧」なんですが、少しずつ自分らしさが写真に出たら、本当うれしいなあ。
分とく山でご飯を食べました。プライベートで伺ったのは初めてです。ゆっくり食事を楽しんで、最後は離れでお茶をいただきました。外まで見送ってくれた野崎さんはやっぱり大きいなあ、と思いました。